関西百物語

青姫

前書き

大阪の迷路のような街並み――道頓堀のネオンと梅田のガラスの塔のあいだで、日常はときおり細い亀裂をのぞかせる。馴染みがふいに異様へと傾く瞬間。見過ごせないほど不穏な偶然。

数週間まえ、仲間のひとりが、誰にもはっきりとは説明できない状況で亡くなった。仏教の四十九日供養は、その2025年8月9日の夜の二日前に執り行われた。だが、導師を務めた僧によれば、どこかがうまくいかなかったという。一本の糸が向こう岸に溶け込んでしまったと、彼は小さく呟いた。

その夜、夏の満月の下で、彼らは故人を偲ぶために集まった。理解の及ばないものに意味を与えるために。

そして、語るために。

――大阪、2025年秋