本書は、現実がほんの少しずれた瞬間を語る百の声を集めたもんです。どの物語も一人称で語られ、偶然と心理、そしてかすかな不可思議のはざまに置かれてます。どのページから開いてもかまいませんけど、順に読んでいけば、響き合いと、地中を流れる水脈みたいなつながりが浮かび上がってきますわ。
ここでは何ひとつ断定してません。曖昧さは欠点やなくて、意図して選んだもんです。怪談と公案のあいだにあるこれらの文章は、答えよりも注意深さ
を実践してもらうためのもんやと思ってください。辛抱強い読者――将棋好きの方でも、ただの好奇心で手に取らはった方でも――は、手がかりや何度も顔を出すモチーフ、そして静けさのうちにしか開かへん扉に、きっと出会わはるはずです。